腎細胞がん

1. はじめに

腎細胞がんは、加齢とともに増加するがんで、85-89歳が発生のピークで、男性のほうが全年齢にわたって女性よりも発生頻度が約2-3倍高くなっています。年々増加しており、2010年では年間7560名の方が亡くなられていたのが、2023年には9859名の方が亡くなられています。
早期の腎細胞癌では、特に症状はなく、最近では検診や人間ドックの超音波検査で偶然に見つかったり、他の病気で施行したCTやMRIで偶然に見つかる方が増えています。
また、尿潜血や顕微鏡的血尿の精査で発見されることもあります。腎細胞がんが進行してくると、血尿や痛みなどの症状や腫瘤が触知されるようになり、これらの症状は腎細胞がんの3主徴と言われています。
腎細胞がんの危険因子として、肥満、高血圧、喫煙、赤身肉の過剰摂取が指摘されています。
治療法としては、がんが局所に留まっている場合は外科的治療(開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術)が基本です。手術が難しい場合は凍結療法を行う場合もあります。転移を有する場合は、全身治療として免疫療法(ニボルマブ、イピリムマブ、ペムブロリズマブ、アベルマブ)や分子標的薬(ソラフェニブ、スニチニブ、アキシチニブ、パゾパニブ、カボザンチニブ、レンバチニブ、エベロリムス、テムシロリムス)などがあります。局所制御のため放射線治療を行う場合もあります。

 

    2. 治療

      1. 外科的治療

      転移のない限局性腎細胞がんが最も良い適応です。
      また、腎の周囲や腎静脈に浸潤している場合も可能な限り手術が行われます。
      手術には 1)開腹手術、2)腹腔鏡手術、3)ロボット支援手術があり、当院では多くの場合、ロボット支援手術を行っています。ロボット支援手術は切開創が小さく、術後の痛みが少ないという利点があります。また、小さい腫瘍に対しては、腫瘍とその周囲の正常腎実質のみを切除し、腎臓を温存する腎部分切除術を積極的に行っています。ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術は2016年4月より保険適応となり、これまでの腎部分切除術よりも複雑な腫瘍に対してもより安全に施行できるようになっています。当院では国産の手術支援ロボットであるHinotoriと、米国産の手術支援ロボットであるDa Vinciを使用して手術を行っています。

      2. 分子標的治療

      本邦では、2008年頃から導入され、転移を有する腎細胞がんの薬物療法の中心となってきた薬剤です。腎細胞がんでは血管内皮を増殖させる成長因子であるVEGFという蛋白質が強く発現し、腫瘍の増大に関連しているため、このVEGFの受容体を阻害する分子標的薬が開発され、高い腫瘍縮小効果が得られています。このVEGF阻害剤には、ソラフェニブ(商品名:ネクサバール)、スニチニブ(商品名: スーテント)、アキシチニブ(商品名:インライタ)、パゾパニブ(商品名:ヴォトリエント)、カボザンチニブ(商品名:カボメティクス)、レンバチニブ(商品名:レンビマ)があります。また腎細胞がんではmTORという蛋白質も強く発現しているため、mTORを抑えるエべロリムス(商品名:アフィニトール)、テムシロリムス(商品名:トーリセル)も保険適応薬として使用可能です。

      3. 免疫療法

      一般的に肺など他の臓器やリンパ節に転移している場合に行われます。外科的治療後の再発予防のために行われる場合もあります。
      従来はインターフェロンα、インターロイキン2と呼ばれるサイトカイン療法が主体で、サイトカイン療法単独より、原発巣の腎細胞がんを手術で摘出した後に、サイトカイン療法を行ったほうが成績が良好であったことから、多くの場合、腎摘除術も同時に行われていました。有効率は10-20%程度で、特に肺転移のみの場合に有効と言われています。現在はこれらのサイトカイン療法はほとんど施行されていません。最近では、新しい免疫療法として免疫チェックポイント阻害薬が出現し、二次治療以降に2016年8月よりニボルマブ(商品名:オプジーボ)が保険承認されました。その後、一次治療として2種類の免疫チェックポイント阻害薬や、免疫チェックポイント阻害薬と分子標的治療薬を組み合わせた治療法が保険承認され、現在イピリムマブ(商品名:ヤーボイ)+ニボルマブ併用療法、アベルマブ(商品名:バベンチオ)+アキシチニブ併用療法、ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)+アキシチニブ併用療法、ニボルマブ+カボザンチニブ併用療法、ペムブロリズマブ+レンバチニブ併用療法の5種類の治療法が保険承認されています。長期に効果が持続する方が認められている一方で、新しい免疫療法に伴う様々な副作用が出る可能性があり、十分注意して治療を受ける必要があります。
      当院では、患者さんの全身状態や転移臓器の状況、病理組織などの様々な情報を考慮して、これらの分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の単独または組み合わせでの治療を選択しています。

      4. 放射線療法

      一般的に骨などの転移巣に対して疼痛緩和目的で行われます。小さな脳転移の場合には、定位放射線療法と呼ばれる狭い範囲に高い線量を照射すると脳転移のコントロールができる場合があります。

      5. 凍結療法

      腎細胞がんに皮膚から 1.5mm 程度の細い針を刺し、針の先端部を超低温にすることにより、腎細胞がんを凍結してがん細胞を破壊する治療法です。腎細胞がんが大きい場合や発生した場所によっては治療が困難な場合もあります。

      腎盂尿管がん

      1. はじめに

      腎盂尿管がんは、腎臓の中で尿が集まる「腎盂」や、腎臓から膀胱まで尿を流す「尿管」にできるがんです。膀胱がんと同じ尿路上皮がんに分類され、全尿路上皮がんの約5〜10%を占めます。
      発症は60歳以上の男性に多く、喫煙や職業性曝露(染料・化学物質など)がリスク因子とされています。
      主な症状
      • 血尿(目に見える血尿や顕微鏡的血尿)
      • 側腹部や腰背部の痛み
      • 尿路閉塞による腎機能障害
      早期には症状が乏しく、検診の尿検査や画像検査で偶然見つかることもあります。

        2. 診断

        診断のために以下の検査が行われます:
        • 尿細胞診:尿中にがん細胞が出ていないか調べる。
        • 尿路造影CT(CT urography):腎盂や尿管の腫瘍の存在を確認。
        • 尿管鏡検査:細い内視鏡で尿管や腎盂を直接観察し、生検を行う。
        腫瘍の位置・大きさ・転移の有無を総合的に評価し、治療方針を決定します。

          3. 治療

            1. 外科的治療(腎尿管全摘除術)

            標準治療は、腎臓・尿管・膀胱の尿管がつながる部分(膀胱尿管口)を含めて切除する手術です。
            • 開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術があります。
            • 腎機能をできるだけ温存するため、低リスクの小さな腫瘍では**腎盂や尿管の一部切除(腎温存手術)**が選択されることもあります。

            2. 膀胱内再発予防

            腎盂尿管がんの患者さんは膀胱内にがんが再発するリスクが高いため、手術後に抗がん剤を膀胱内に注入することがあります。

            3. 化学療法・薬物療法

            進行例や転移例では、膀胱がんと同様に全身治療が行われます。
            • これまでの標準:GC療法(ゲムシタビン+シスプラチン)やddMVAC療法
            • 新しい標準:
            o エンホルツマブ ベドチン(EV)+ペムブロリズマブ
            o GC療法+ニボルマブ
            • FGFR遺伝子変異・融合を有する患者さんには**FGFR阻害薬(エルダフィチニブ)**が有効とされます。

            4. 放射線療法

            局所の痛みや出血などの症状緩和、あるいは転移巣のコントロールに用いられることがあります。

            4. まとめ

            腎盂尿管がんは比較的まれながんですが、血尿をきっかけに発見されることが多い病気です。標準治療は腎尿管全摘除術であり、再発予防や進行例に対しては化学療法・免疫療法・分子標的薬が組み合わされます。
            当院では、患者さんの全身状態や腎機能、遺伝子変異の有無などを踏まえて、標準治療から最新の薬物療法まで幅広く対応しています。