膵がん・膵腫瘍

1. 膵臓とは

 膵臓とは、胃の後ろにある、長さ20cmほどの細長い形をした臓器です(図)。体の右側のふくらんだあたりを膵頭部といい、十二指腸に囲まれるように位置しています。左側は膵尾部といい、端に脾臓があります。中央は体部といいます。膵臓には主に大きな2つの役割があります。消化液である膵液をつくり分泌する(外分泌)機能と、血糖値を下げるインスリンなどのホルモンをつくり分泌する(内分泌)機能です。膵液は膵管という管を通って、主膵管という1本の管に集まり、肝臓から胆汁を運ぶ胆管と合流して十二指腸に流れます。

    2. 膵臓がんとは

     膵臓がんは、ほとんどが膵管に発生します。膵癌がんは血液やリンパ管に沿って転移しやすく、またおなかの中に散らばるように広がる腹膜播種を起こすこともあり、他のがんに比べて悪性度が高いがんです。他に、嚢胞性膵腫瘍や神経内分泌腫瘍などの病気は、悪性を示すことがあります。膵がんの危険因子には、家族歴・喫煙・肥満・慢性膵炎・糖尿病などがあります。

      3. 症状

       膵臓がんは、初期には症状がほとんどないことが多く、早期発見が難しいがんです。進行すると、食欲不振や黄疸、背中の痛みなどを伴うことがあります。また、糖尿病が急激に悪化した場合も注意が必要です。

        4. 検査

        4. 検査

         膵臓がんが疑われた場合は、血液検査、超音波検査(超音波内視鏡検査: EUS)、造 影CT検査やMRI検査を行います。また組織を採取するために、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)やEUSによる穿刺(EUS-FNA)を行い、できるだけ細胞の検査でがんを確認します。
         また腹膜播種は画像では診断できないことが多く、当院では審査腹腔鏡という手術を行うことが多いです。これは全身麻酔をしておへそに小さな穴をあけ、腹腔鏡という内視鏡を挿入しておなかの中を直接観察する30分ほどの手術です(図:審査腹腔鏡でみつかった腹膜播種)。また、全身への転移の有無を確認する目的で、PET-CTを撮影することもあります。

          5. 治療

            5-1. 治療方針の選択

             膵臓がんの治療は、がんの進行の程度に加え、患者さんの体の状況や本人の希望、生活環境を総合的に判断し決定します。がんの進行の程度は、ステージで分類することが一般的です。膵臓がんは0期からIV期まであり、がんの大きさや周囲への広がり、リンパ節や他の臓器への転移の有無により決まります。(図1)

             膵臓がんにおけるステージ別の標準治療について図に示します。(図2)

             膵がんでは、最初に手術ができるかどうかを判断しますが、図のように「切除可能」「切除可能境界」「切除不能」に分類されます。「切除可能」の場合は、薬物療法(抗がん剤)を投与した後に手術を行い、術後も抗がん剤の内服を行います。がんが大きな血管に浸潤していたり、別の臓器に転移していたりする場合は「手術不能」と判断し、薬物療法や放射線療法を行います。「切除可能境界」の場合は薬物療法を行い、腫瘍マーカーや画像検査で効果を判定し、手術を行います。手術までの薬物療法の種類や期間は施設により異なりますが、当院ではmFOLFIRINOX療法やGnP療法を2-4か月程度行い、効果を判定します。CA19-9という腫瘍マーカーが順調に低下すれば手術を行うことが多いですが、効果がなく薬物療法中にがんが進行することもあり、経過に応じて治療法を再考します。また、「手術不能」の場合でも薬物療法や放射線療法後に手術が可能になることもあり、あきらめずに治療を続けることが重要です。

            (図1)

            (図1)

            (図2)

            (図2)

            5-2. 手術

             膵臓がんは薬物療法や放射線治療では根治が難しく、手術を目指して様々な治療(集学的治療)を行います。手術には、膵頭十二指腸切除術、膵体尾部切除術のいずれかを行うことが多く、場合によって膵臓を全て摘出する膵全摘術があります。血管や大腸等他の臓器に浸潤がある場合は、状況により一部合併切除します。
            膵頭十二指腸切除術:がんが膵頭部に存在する場合の手術です。図のように、膵頭部だけではなく、十二指腸や胃の一部に加え小腸を一部、さらに胆管や胆嚢も摘出します(図左)。

             膵頭十二指腸切除術に関しては、膵臓の周囲は血管が豊富で解剖が複雑である上、摘出した後は残った膵臓と小腸・胆管と小腸・胃と小腸をつなぎ合わせる再建が必要です。消化器外科手術の中で最も難易度が高い術式ですが、徳島大学では技術進歩とともに現在400分以内、出血は100ml程度で手術できるようになっています(図右)。

             膵体尾部切除術:がんが膵体部や膵尾部にある場合、膵臓の体部と尾部を脾臓と一緒に切除します(図3)。膵頭十二指腸切除術と比べ、再建は必要ありません。

             手術後は、切除した膵臓の断端や、つなぎ合わせた部分から膵液や胆汁が漏れることがあり、感染や腹膜炎・出血等の合併症が起こることがあります。また、腸閉塞や胃の動きが悪くなることにより、食事が摂れなくなることがあります。膵頭十二指腸切除を行った場合は、胆管に腸液の菌が入り込み、胆管炎を起こすことがあります。おなかの中の合併症は消化器外科医が対応しますが、肺炎や下肢血栓、心筋梗塞や脳梗塞といった合併症が起こることもあり、その場合は各分野の専門医師に連絡し、診てもらいます。合併症が全くなく、順調に経過した場合はいずれの手術でも2-3週間程度で退院が可能ですが、術後の状況によっては長期入院を要する場合があります。また、膵液の分泌低下による慢性的な下痢や、インスリン分泌低下により糖尿病発症もしくは悪化を来すことがあります。

            (図3)

            (図3)

            5-3. 薬物療法

             膵臓がんの薬物療法では、主に殺細胞性抗がん剤を使用します。

            ・GS療法(ゲムシタビン+S-1):主に「切除可能」膵臓がんの術前治療として使用 します。

            ・mFOLFIRINOX療法(オキサリプラチン+レボホリナート+イリノテカン+5-FU)
            ・GnP療法(ゲムシタビン+ナブパクリタキセル)
             以上2種類は「切除可能境界」や「切除不能」、「再発」膵臓がんに使用します。

             S-1:手術後に内服することで(術後補助化学療法)、再発率が下がることが報告されています。

             Nal-IRI/FL療法(リポソーマルイリノテカン+レボホリナート+5-FU):ゲムシタビンを含む治療が効かなかった場合の2次治療として、「再発」や「切除不能」膵臓がんに使用します。
            これ以外にも、がん遺伝子検査の結果によっては、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤を使用できる場合があります。
             薬物療法は様々な副作用があり、個人によって出現頻度や程度に差が大きいため、選択においては担当医とよく相談することが重要です。

            5-4. 放射線療法

             遠隔転移はないものの、がんが重要な血管等に浸潤しており手術ができない場合(局所進行切除不能膵臓がん)に、化学療法と放射線治療を組み合わせて行うことがあります。また、痛みを和らげる場合に放射線治療が有効な場合があります。

            5-5. 再発に対する治療

             再発した場合は、薬物療法を行うことが多いですが、放射線治療や手術を行うこともあります。状況を総合的に判断し、治療方針を決定します。



            徳島大学病院消化器・移植外科は、県内唯一の肝胆膵外科学会高度技能専門医修練施設Aに認定されており、膵臓がんに対する手術・薬物療法ともに豊富な治療実績があります。わからないこと・不安なことがあればいつでも相談してください。