胆嚢がん・胆管がん
1. 胆道がんとは
胆道とは肝臓で作られた胆汁の通り道で、胆管・胆嚢・十二指腸乳頭部の総称です。胆管は肝臓の中の胆管(肝内胆管)、外の胆管(肝外胆管)に分けられ、さらに肝外胆管は上部の胆管(肝門部領域胆管)、下部の胆管(遠位胆管)に分けられます。胆汁は肝内胆管から肝門部領域胆管を通って、一旦胆嚢で濃縮され、遠位胆管、乳頭部を通過して十二指腸に流れ込み、消化を助けるはたらきをしています。胆道がんは発生部位別に、肝内胆管がん・肝門部領域胆管がん・胆嚢がん・遠位胆管がん・乳頭部がんに分けられます。日本では肝内胆管がんは肝臓がんとして扱われており、ここでは胆嚢・胆管がんについて説明します。胆嚢・胆管がんは70-80代の高齢者に多く、胆管がんは男性、胆嚢がん女性に多い傾向があります。

2. 症状
胆管がんの最初の症状として、皮膚や目の白い部分が黄色くなる「黄疸」があります。胆管にがんができると、胆汁の流れがせき止められ、血液中に逆流することで起こります。胆汁が腸に流れなくなると、便が白っぽくなったり(白色便)、尿中の胆汁成分が多くなるため色が濃くなったりします(褐色尿)。その他、腹痛・発熱・倦怠感・食欲不振なども見られることがあります。胆嚢がんは、初期には症状がほとんどないことが多く、早期発見が難しいがんです。
3. 検査
胆管がん・胆嚢がんが疑われた場合、まず血液検査と腹部超音波(エコー)検査を行います。胆嚢に腫瘍があったり、胆管が拡張したりしている場合には、CT検査やMRI検査を行います。さらに詳しく調べる場合には、内視鏡を使った以下の検査を行います(図)。
・先端に超音波プローブをつけた内視鏡を口から入れ、胃や十二指腸からがんや周囲の状態を調べる「超音波内視鏡検査」(EUS)
・内視鏡を口から入れ、十二指腸乳頭からカテーテルを通し、胆管内に造影剤を注入することで胆管内のがんによる狭窄や範囲の広がりを調べる「内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査」(ERCP)
・胆管内に細い超音波プローブを通して、胆管内の様子を観察し、がんの深さや広がりを調べる「管腔内超音波検査」(IDUS)
・口から胆管内に細い内視鏡を入れて、胆管内でのがんの広がりを直接観察する「経口胆道鏡検査」(POCS)
また、ERCPやPOCSなどを行う際、組織や細胞を採取して、がんかどうかをはっきり診断する生検や細胞診を行います。
また、全身への転移の有無を確認する目的で、PET-CTを撮影することもあります。

4. 治療
4-1. 治療方針の選択
胆管がん・胆嚢がんの治療は、がんの進行の程度に加え、患者さんの体の状況や本人の希望、生活環境を総合的に判断し決定します。がんの進行の程度は、ステージで分類することが一般的です。0期からIV期まであり、がんの大きさや周囲への広がり、リンパ節や他の臓器への転移の有無により決まります(図)。
胆管がん・胆嚢がんでは、まず手術ができるかどうかを判断します。その判断基準として、
・手術に耐えられるからだの状態であること
・遠隔転移がないこと
・肝臓を切除する場合は、手術後の肝臓の機能(予備力)が十分であること
が重要です。
大きな血管や周囲に広くに浸潤している場合も手術ができないと判断されますが(局所進行)、施設ごとに判断が異なることもあります。切除可能・不能の場合の治療の流れについて図に示します。


4-2. 胆道ドレナージ
がんにより胆汁の流れがせき止められると、黄疸が出現し、手術や薬物療法を安全に施行できない場合があります。そのため、胆管のつまりを改善する処置を行うことがあり、「胆道ドレナージ」と呼びます。ドレナージには、外ろうと内ろうの2つの方法があります。外ろうは、チューブを使って胆汁をからだの外に出しますが、胃を通って鼻からからだの外へ出す方法(ENBD)と、肝臓を通ってからだの外へ出す方法(PTBD)があります。内ろうは、ステントというプラスチックや金属の管を胆管の中に入れ、胆汁の流れを良くする方法です。
4-3. 手術
胆管がん・胆嚢がんは薬物療法や放射線治療では根治が難しく、手術が最も治癒が期待できます。がんの場所、広がりに応じた術式を選択しますが、基本的に、肝門部領域胆管がんの場合は胆管・胆嚢に加え肝臓を約半分切除し胆道を再建する手術、遠位胆管がんの場合は胆管と胆嚢・膵臓・十二指腸を切除し再建する手術、胆嚢がんの場合は胆嚢・胆管とともに肝臓を一部切除する手術(胆管は切除しない場合もあります)を行います。肝臓・膵臓や胆管の周囲は血管などの解剖が複雑で、消化器がん手術の中で最も高度な技術が必要です。図にそれぞれの手術で切除する範囲を示します。
手術後は、切除した肝臓の部位や、胆管・膵臓と腸をつなぎ合わせた部分から胆汁や膵液が漏れることがあり、感染や腹膜炎・出血等の合併症が起こる可能性があります。肝臓を大きく切除した場合は、肝臓の機能障害が起こり、黄疸が出現したり、腹水が溜まったりすることがあります(肝不全)。胆管と腸をつなぐ手術では、胆管に腸液の菌が入り込み、胆管炎を起こすことがあります。おなかの中の合併症は消化器外科医が対応しますが、肺炎や下肢血栓、心筋梗塞や脳梗塞といった合併症が起こることもあり、その場合は各分野の専門医師に連絡し、診てもらいます。合併症が全くなく、順調に経過した場合はいずれの手術でも2-3週間程度で退院が可能ですが、術後の状況によっては長期入院を要する可能性があります。手術後に、抗がん剤の内服を行う(術後補助化学療法)こともあります。

4-4. 薬物療法
手術ができない場合は薬物療法を行います。現在、殺細胞性抗がん剤(ゲムシタビン、シスプラチン、S-1)を3剤併用するGCS療法、ゲムシタビン・シスプラチンに免疫チェックポイント阻害剤であるデュルバルマブ・ペムブロリズマブを併用する方法(GCD・GCP療法)が第一選択となっています。胆管がんは薬物療法が効きにくいがんでしたが、免疫チェックポイント阻害剤を含む薬剤の進歩により、手術ができない胆管がんに対する奏効率(癌を小さくできる割合)が26.7-41.5%、1年生存率が52-59.4%と治療成績も良くなってきました。免疫チェックポイント阻害剤は、がんを攻撃するリンパ球に対してがん細胞がかけているブレーキを解除することで、リンパ球の力を十分に発揮させる画期的な薬で、2023年から使用可能になりました(図)。またがん遺伝子検査の結果によっては、分子標的薬を使用できる場合があります。さらに診断当初手術ができない場合でも、薬物療法後に手術ができるようになる(コンバージョン手術)こともあり、あきらめずに治療を行うことが重要です。
薬物療法は様々な副作用があり、個人によって出現頻度や程度に差が大きいため、選択においては担当医とよく相談することが重要です。

4-5. 再発に対する治療
再発した場合は、薬物療法を行うことが多いですが、放射線治療や手術を行うこともあります。状況を総合的に判断し、治療方針を決定します。
徳島大学病院消化器・移植外科は、県内唯一の肝胆膵外科学会高度技能専門医修練施設Aに認定されており、胆道がんに対する手術・薬物療法ともに豊富な治療実績があります。わからないこと・不安なことがあればいつでも相談してください。