骨・軟部腫瘍
1.骨・軟部腫瘍とは
骨組織に発生した腫瘍を「骨腫瘍」、筋肉・神経・脂肪・血管などの軟らかい組織に発生した腫瘍を「軟部腫瘍」、併せて「骨・軟部腫瘍」といいます(図1)。骨・軟部腫瘍には良性のものと悪性のものがあります。
●良性:原則的に命に関わらないもの。機能的な問題が出現することがある。腫瘍の種類によっては良性でも局所制御に難渋するものがある。
●中間型:良性と悪性の間。骨巨細胞腫やデスモイド腫瘍などがこれに当たる。局所再発しやすく難治であることも少なくない。転移することは、組織型によってはまれながらある。以上から悪性に準じた切除や薬物療法が行われることがある。
●悪性:原発性と転移性のものがある
原発性:骨・軟部腫瘍においては骨や軟部そのものに発生した腫瘍(肉腫)
転移性:乳がんや腎がんなどの他の臓器から骨や軟部に来て増殖した腫瘍
原発性の悪性腫瘍は「肉腫(サルコーマ)」ともいいます。悪性骨腫瘍は年間0.8/10万人、悪性軟部腫瘍は2~3/10万人の発生頻度と、肉腫は「希少がん」になります。この上、種類が多く、診断に難渋する場合が少なくありません。安易な切除は再発を招き、命や四肢機能を失います。専門施設での診断・治療が必要です。
日本整形外科学会ホームページも御覧ください。
https://www.joa.or.jp/public/bone/index.html

(図1)
2.症状(図2)
骨腫瘍:痛みを感じて受診し、画像でみつかることが多いです。痛みの原因が骨腫瘍でなく、加齢等による関節などの痛みであることも少なくありません。痛みに加えて腫れも伴う場合は要注意です。
軟部腫瘍:骨腫瘍と違って、悪性であっても痛みを伴わないことがほとんどです。徐々に大きくなる腫瘍、特に5 cmを超えるものは精密検査が必要です。

(図2)
3.診察と画像診断
いつからどのように症状が出現したか、腫瘍の大きさに変化はあるか、いままでかかった病気があるか等の面接を行います。続いて腫瘍の性状や症状をみるため、身体所見をとります。
単純X線写真、MRI、CTなどを行い、必要に応じて血液検査、エコー、核医学検査、PET-CTなどの精密検査を加えます。画像診断は放射線科専門医と連携して行います(図2)。
4.生検(図3)
臨床経過と画像から悪性腫瘍が疑われる場合には生検を行います。生検とは腫瘍の一部の組織を採取して調べることです。生検は場合に応じて「針生検」「切開生検」「切除生検」を使い分けています。
針生検:腫瘍を針で刺して、組織を採取する方法です。外来において局所麻酔下でできますが、組織量が少なく十分な診断ができないことが有ります。深部で重要な臓器が近いときには放射線科に依頼してCTガイド下針生検を行います。
切開生検:手術的に組織の一部を採取する方法です。ほとんどの場合、入院したうえで全身麻酔や腰椎麻酔が必要になりますが、針生検にくらべると確実な診断ができる可能性が高いと考えられます。
切除生検:2 cm以下の小さな表層腫瘍で、生検が難しく追加切除が可能な場合などに限定して行われます。適応は慎重です。
以上の手法により採取した組織は「病理部」に提出し、顕微鏡を用いて調べます。診断は病理医によってなされ、確定診断には1週間から2週間を要します。ただし、骨・軟部腫瘍のなかには診断困難なものもあり、さらに別施設に相談に出すこともあります。この場合には1ヶ月以上診断にかかることもあります。

(図3)
5.治療
■原発性骨・軟部腫瘍
良性腫瘍:原則手術をするか、経過観察をするかになります。薬物療法は腫瘍の種類やできたところによっては行うこともあります。
痛みや機能障害がある場合、診断が必要である場合、骨折を起こしそうな場合は手術を行います。良性骨腫瘍の場合は骨腫瘍切除や搔爬・骨移植術(図4)を行うことが多いです。良性軟部腫瘍の場合は辺縁切除(腫瘍だけをとる手術)を行いますが、神経鞘腫という神経にできた腫瘍は核出術(神経線維をなるべく残す術式)を行います(図5)。
中間型腫瘍:多くの腫瘍は手術が必要です。デスモイド腫瘍はできる場所によっては手術よりも薬物治療(抗がん剤治療)が推奨されます。
悪性腫瘍:悪性腫瘍細胞は一見正常と思われる組織にも浸潤しています。良性腫瘍で行われる辺縁切除や掻爬術ではすぐに再発しますので、原則的には正常組織につつんで腫瘍を切除する広範切除を行います(図6)。欠損が大きい場合には、必要に応じて再建術を行います。再建には広範囲置換型人工関節、また液体窒素で腫瘍細胞を殺した骨を利用する液体窒素処理骨(図7)などの方法があります。ほとんどの症例で患肢温存を行っていますが、やむを得ず切断を選択する場合もあります。
手術に際しては、整形外科内での専門分野の連携を行ったり、呼吸器外科・消化器外科・泌尿器外科・形成外科などの他の診療科と切除・再建について共同で手術を行ったりします。
当科における軟部肉腫の治療成績を図8に示します。5年全生存率は79.2%、5年無局所再発率は92.1%でした。
腫瘍の種類により化学療法(抗がん剤治療)や放射線療法を行います。

(図4)

(図5)

(図6)

(図7)

(図8)
<代表的な腫瘍と化学療法について>
・骨肉腫:
MAP療法:メトトレキサート(M)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)(A)、シスプラチン(P):
小児科と連携して行うことが多いです。
・ユーイング肉腫:
VDC-IE療法:ビンクリスチン(V)、ドキソルビシン(アドリアマイシン(A)、
シクロホスファミド(C)、イホスファミド(I)、エトポシド(E):
小児科と連携して行うことが多いです。
・多くの軟部肉腫(紡錘形軟部肉腫):
ドキソルビシン単剤療法:外来で可能
AI療法:ドキソルビシン(アドリアマイシン)(A)・イホスファミド(I)
トラベクテジン 3~7日程度の入院が必要
エリブリン 外来で可能
パゾパニブ 内服薬。外来で可能
GD療法:ゲムシタビン(G)・ドセタキセル(D)
・胞巣状軟部肉腫:アテゾリズマブ
・血管肉腫:パクリタキセル
<放射線治療について>
肉腫に対する放射線治療は、単独では高い効果が得られにくいものの、手術と併用して術前または術後に行うことで、切除範囲の不足を補い、より多くの組織を温存することが可能になります。ただし、創傷治癒の遅延や、将来的な二次がんのリスクといった合併症には注意が必要です。
近年では、陽子線治療や重粒子線治療といった、より高い効果が期待できる放射線治療も登場していますが、徳島県内では受けることができないため、現在は兵庫県の粒子線医療センターなどの施設に依頼しています。
<徳島サルコーマ(肉腫)カンファレンス>
肉腫(サルコーマ)は希少がんであり、発症年齢・発生部位・組織型が非常に多様です。これまでの記述にもあるように、さまざまな専門家が連携して対応することが必要です(多診療科連携チーム)。
そのため、徳島大学では徳島大学医療圏全体を対象に「徳島サルコーマ(肉腫)カンファレンス」を開催し、多職種間の連携を推進しています(図9)。このカンファレンスには徳島大学だけでなく、他の医療機関の関係者も参加しており、肉腫患者の診断・治療の質向上をチームで目指しています。

(図9)
■転移性骨・軟部腫瘍
原発巣の診療科と連携しながら、放射線治療や薬物療法を検討し、必要に応じて手術を行います。
<がんロコモについて>
骨や筋肉などの運動器の障害により移動機能が低下した状態を「ロコモーティブシンドローム(ロコモ)」といいます(日本整形外科学会・ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイトより)。このうち、がんそのもの、あるいはがん治療の影響によって、骨・関節・筋肉・神経などに障害が生じ、移動機能が低下した状態を「がんロコモ」と呼びます。
がんロコモは以下の3つのタイプに分類されます(図10参照):
タイプ1:がんによる運動器の障害
例:肉腫や転移性骨腫瘍によって引き起こされる障害
タイプ2:がん治療による運動器の障害
例:抗がん剤による末梢神経障害(手足のしびれや運動障害)、放射線治療後の骨の脆弱性による骨折など
タイプ3:がんと併存する運動器疾患の進行
例:もともと変形性膝関節症があり、人工膝関節置換術を予定していたが、がんの治療が優先され膝の治療が遅れる場合など
がんは依然として難治性疾患ではありますが、治療の進歩により長期生存が期待できるようになっています。整形外科では、がん患者さんの運動器機能をできる限り維持するため、「がんロコモ」への取り組みを進めています。
徳島大学は、徳島県立中央病院と連携し「総合メディカルセンター」を構成しており、その中の徳島がん対策センターにおいて「がんロコモ」への取り組みが今後さらに進められる予定です(図11)。

(図10)

(図11)