徳島大学病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科における頭頸部がん治療
頭頸部がんとは
頭頸部がんとは、顔や首の周り(顔面頭蓋・頸部)にできるがんの総称で、脳や脊髄などの中枢神経、眼の奥(眼窩)を除く首から上のすべての領域のがんを指します。
発生部位は、口腔、咽頭、喉頭、鼻・副鼻腔、耳(外耳・中耳)、唾液腺、甲状腺、リンパ節、皮膚、骨・軟骨、軟部組織など多彩です。
頭頸部がんは、日本全体のがんの中では、およそ3~5%程度を占めます。代表的ながんとして、聴器がん、鼻・副鼻腔がん、口腔がん、上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん、喉頭がん、唾液腺がん、甲状腺がんなどがあります。
聴器がん(外耳・中耳がん)の治療
外耳や中耳にできるがんは非常にまれで、全国的にも症例数が少ないため、確立された標準治療はまだ限られています。
早期のがんでは、手術による腫瘍の摘出が基本です。腫瘍の大きさや広がりによっては、耳介や外耳道、側頭骨の一部を切除することがあります。
進行して広範囲に広がっている場合には、放射線治療や抗がん剤治療を組み合わせた集学的治療を行います。また、必要に応じて定位放射線治療を併用することもあります。
手術や放射線治療の後は、聴力や顔面神経の機能を回復させるために、必要に応じて補聴器の使用やリハビリを検討します。
鼻・副鼻腔がんの治療
鼻や副鼻腔にできるがんは、初期には症状が出にくいため、進行してから見つかることが多いです。
特に上顎洞がんでは、手術・放射線治療・抗がん剤治療を組み合わせた集学的治療を行います。
近年は、カテーテルを用いて腫瘍の栄養血管に抗がん剤を届ける超選択的動注化学療法を行い、同時に放射線治療を組み合わせて治療する方法も用いています。
できるだけ眼球を温存し、顔の変形を抑えるように治療を計画しますが、進行して広がりが大きい場合や治療に反応しにくいがんでは、手術で腫瘍を広範囲に切除することが必要になることがあります。その際には脳神経外科による頭蓋底手術や、形成外科による再建手術を併用します。
口腔がんの治療
口腔がんは、舌、歯肉、頬粘膜、口腔底、口蓋などに発生します。目で見える場所にできるため、比較的早期に見つかることが多いのが特徴です。
治療の基本は手術による切除です。早期のがんでは、病変のある部分を切除するだけで治療できることもあります。進行したがんでは、腫瘍と一緒に首のリンパ節を切除する頸部郭清術を行うことがあります。欠損部が大きくなった場合には、前外側大腿皮弁、大胸筋皮弁、腹直筋皮弁などを使って再建手術を行い、がんの治療とともに食べる・話すといった機能をなるべく保てるようにしています。
また、手術で取り切れても、再発のリスクが高いと判断される場合(切除断端が近い、リンパ節の外に広がっているなど)には、手術後に放射線治療や抗がん剤治療を追加することがあります。
腫瘍が大きくてすぐに切除が難しい場合には、手術の前に導入化学療法を行うこともあります。
上咽頭がんの治療
上咽頭がんは、手術が難しい場所にできるため、放射線治療と抗がん剤治療を同時に行う化学放射線療法(CRT)が基本となります。
治療後に首のリンパ節が残っている場合には、頸部郭清術でリンパ節を切除します。
腫瘍が大きく進行している場合には、治療の前に導入化学療法を行い、その後にCRTを行うこともあります。
中咽頭がんの治療
中咽頭は呼吸・嚥下・発声に関わる大切な場所で、治療では機能をできるだけ守ることが重要です。
当科では、放射線治療と抗がん剤治療を同時に行う化学放射線療法(CRT)を基本としています。
近年は、ヒトパピローマウイルス(HPV)関連の中咽頭がんが増えており、これらは放射線治療に反応しやすく、予後も比較的良いことがわかっています。そのため、治療の強さや後遺症とのバランスを考えながら治療を計画しています。
放射線治療だけでは根治が難しい場合や、再発した場合には手術を行うことがあります。近年では、口から行う低侵襲の手術(手術支援ロボット「ダヴィンチ」を用いた方法や、内視鏡を用いた方法)が導入されており、従来よりも体への負担を少なくできる場合があります。
手術で大きな欠損が生じた場合には、皮弁を用いた再建手術を行い、嚥下や発声の機能をできるだけ保てるようにしています。
下咽頭がんの治療
下咽頭がんは、進行した状態で見つかることが多いのが特徴です。
そのため、多くの場合は手術による切除が必要になります。早期のがんでは、口から行う内視鏡手術や放射線治療を行い、必要に応じて抗がん剤を併用することもあります。
進行したがんでは、咽頭と喉頭を摘出する手術が必要となることがあり、その際には消化器外科や形成外科と協力して、遊離空腸を使用した再建手術を行います。
一方で、喉頭の温存を希望される場合や、手術が難しい場合には、放射線治療と抗がん剤治療を同時に行う化学放射線療法(CRT)を行うこともあります。
喉頭がんの治療
喉頭がんは、声を出す器官である喉頭にできるがんで、できる場所によって、声を出す部分(声門)にできる声門がん、声門の上にできる声門上がん、声門の下にできる声門下がんに分けられます。
声門がんは声の変化(嗄声)で比較的早期に見つかることが多いのが特徴です。
早期のがんでは、放射線治療が中心で、必要に応じて喉頭部分切除手術を行うこともあります。
進行したがんや、放射線治療の効果が不十分な場合、再発した場合には、喉頭全摘出術を行うことがあります。
手術で声を失った後には、代用音声(電気喉頭、食道発声、シャント発声など)を使ったリハビリを行います。当科では、喉頭全摘出術を受けられた患者さんの会である「喉友会」と協力しながら、発声の支援を行っています。
唾液腺がんの治療
唾液腺にできる腫瘍は、手術による摘出が基本となります。
腫瘍の性質や広がりによって切除範囲を決めます。
耳下腺にできる腫瘍の場合、手術前に顔面神経の麻痺がないときは、できるだけ顔面神経を残すように手術を行います。やむを得ず神経を切除した場合には、神経移植を行い、術後にリハビリを行うことで表情の回復を目指します。
唾液腺がんは組織型が多様でまれながんですが、悪性度が高いことが分かった場合や、再発のリスクが高いと判断される場合には、手術に加えて放射線治療や抗がん剤治療を追加することもあります。
また、再発や転移がある場合には、分子標的薬や遺伝子パネル検査を利用した新しい薬による治療を検討することもあります。
甲状腺がんの治療
甲状腺にできるがんは、手術による摘出が基本となります。
代表的な分化型甲状腺がん(乳頭がん・濾胞がんなど)は進行がゆるやかなことが多く、甲状腺の一部を切除する場合と、全体を切除する場合があります。
再発のリスクが高い場合には、放射性ヨウ素内用療法(RAI)を追加することがあります。
一方で、まれに見られる未分化がんや髄様がんなどは進行が早く、手術だけでなく放射線治療や抗がん剤治療を組み合わせることがあります。
再発や転移がある場合には、分子標的薬などの新しい薬による治療を行うこともあります。