乳がんの標準治療
乳がんは年々増えています
乳がんは女性の臓器別がん罹患率の第1位で、年々増加傾向にあり2021年には全国で99,449人もの方が罹患しています。現在では日本人女性の約9人に1人が乳がんになると言われています。徳島県でも毎年600人近くに乳がんが発見され治療を受けています。
検診受診率は少しずつ向上してきていますが、2022年の日本の乳がん検診受診率は47%程度で諸外国と比べるとまだまだ低いのが現状です。徳島県でもマンモグラフィ検診が導入されて久しいですが、2022年の受診率は43%と全国平均を下回る結果です。2006年に制定されたがん基本対策法で目標にしている検診受診率50%にならなければ、死亡率を半減することはできないと言われています。
乳がんの早期発見には、「ブレスト・アウェアネス」という日頃から乳房を意識する生活習慣が大切です。自分の乳房の状態を知り、乳房の変化に気をつけて、変化を感じたらすぐに医療機関に相談し、40歳になったら2年に1回の乳がん検診を受けましょう。
乳がんにかかりやすいひと
血縁者に乳がんがいる(家族歴がある)方は、家族歴がない方に比べて、乳がんのなりやすさを持っていますが、家族歴がある乳がんが全て遺伝性とは限りません。乳がん全体の5~10%が遺伝性と言われています。遺伝性乳がんの代表的なものに、BRCA1・BRCA2という遺伝子の変化が原因となる「遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)」があります。
また、乳がんは女性ホルモンの影響を受けるため、初潮が早く、閉経が遅いほどかかりやすく、出産年齢の高齢化や授乳歴がないなどもリスク因子と言われています。喫煙や肥満も乳がんのリスクを増やします。
更年期障害に対するホルモン補充療法や経口避妊薬(ピル)は乳がん発症のリスクを増加させる可能性はありますが、そのリスクの増加は小さいと言われています。
乳がんの症状
乳がんの治療には局所治療(手術療法や放射線治療)と全身治療(薬物療法)があります。
乳がんのタイプによってこれらを組み合わせて治療します。
乳がんの標準的治療法
乳がんの治療には局所治療(手術療法や放射線治療)と全身治療(薬物療法)があります。
乳がんのタイプによってこれらを組み合わせて治療します。
手術療法
乳管内に留まるような初期のがんであれば、局所治療だけで治癒できる可能性があります。
乳がんは乳管を介して広がっていることもあるため、超音波検査や CT、MRI検査でがんの広がりを調べます。これらの検査でしこりの広がりがあまりない場合(通常は3cm以下のしこり)には、乳腺を部分的に切除する乳房部分切除(温存手術)が可能です。がんが広がっている場合、温存手術では高度の変形が予想される場合などでは、乳房全切除(全摘)を選択します。
最近では、より小さな乳癌に対してラジオ波焼灼療法という治療法も選択できるようになりました。専用の針を腫瘍に刺して電流を流し、発生する熱でがん細胞を死滅させるという、切らずに治す方法です。
乳がんの病状把握、治療方針の判断にはワキの下のリンパ節に転移しているかどうかが、重要な情報となります。手術の際にワキのリンパ節を採取し、転移の有無、転移の個数を調べます。
また、全摘術後に乳房再建術といって乳房のふくらみを作る手術も行う事が出来ます。自家組織(自分の組織の一部)や人工乳房(インプラント)を使って再建する方法があります。
放射線療法
乳房温存手術やラジオ波焼灼療法を選択した場合は、術後に放射線治療が必要になります。
全摘の場合でも、リンパ節転移が多数ある時や腫瘍の大きさが大きな時などには放射線治療を行うこともあります。
薬物療法
乳がんは乳房の局所だけの病気ではなく全身の病気と考えられています。
たとえ進行度Ⅰ期のがんでも手術だけでは再発することがあり、進行度に比例して再発リスクは高くなります。術後治療の目的は、からだのどこかに潜んでいるがん細胞を根絶して、再発のリスクをできるだけ減らすことです。
がんのタイプや転移したリンパ節の個数などから患者さん個々に適した薬物療法を行います。
乳がんの約7割が細胞内に女性ホルモンに反応する受容体をもっており、ホルモン療法による再発予防効果が期待できます。閉経前には注射剤で月経を抑え、受容体に結合して女性ホルモンの働きを弱めるタモキシフェンを用います。閉経後では、副腎や脂肪組織で女性ホルモンをつくる転換酵素であるアロマターゼを阻害するアロマターゼ阻害剤を用います。再発リスクが高い場合は、これらのホルモン療法に加えて分子標的薬や抗がん剤の飲み薬を使うこともあります。
また、乳がんの15-25%にはがんを増殖させるHER2(ハーツー)蛋白が存在します。
この蛋白が陽性のタイプには、抗がん剤と一緒にHER2に対する抗体薬であるトラスツズマブ(ハーセプチン)などを用いた抗HER2療法が必要です。
ホルモン受容体もHER2蛋白も陰性の乳がん(トリプルネガティブタイプ)には、抗がん剤や免疫チェックポイント阻害剤という薬剤を用います。
手術前に薬物療法を行うこともあります。大きなしこりを小さくして乳房温存手術を可能にしたり、薬の効果を確かめたりすることができます。その効果に合わせた術後の治療を考えることもでき、治療により乳がんが消失するほど予後が良いとのデータもあります。
乳がんが他の部位に転移、再発した場合の治療は、薬物療法が中心となります。この場合も、がんのタイプや進行度に応じて使う薬剤を考えて治療を行います。
乳がんはがんの中でも最も研究が盛んな分野のひとつです。世界中で様々な研究が行われ、年々新たな薬剤が開発されています。乳がんと診断された場合は、専門医の説明をよく理解し、適切な治療を受けましょう。
