膀胱がん
1. はじめに
膀胱がんは、尿をためる臓器である膀胱にできるがんです。日本では年間約2万人が新たに診断され、男性に多く、男女比は約3:1とされています。好発年齢は60歳以上で、加齢とともに増加します。
主な危険因子
• 喫煙(最も強い危険因子で、非喫煙者の2〜4倍リスクが高い)
• 職業的曝露(染料や化学物質に長期間さらされる仕事)
• 慢性的な膀胱炎、長期のカテーテル留置
• 遺伝的要因
症状
膀胱がんの代表的な症状は血尿です。
• 目に見える血尿(肉眼的血尿)
• 顕微鏡でしか確認できない血尿(顕微鏡的血尿)
その他、膀胱刺激症状(頻尿・排尿痛・残尿感)や、進行すると腰痛・骨の痛みが出る場合もあります。
2. 診断
膀胱がんの診断には以下の検査が行われます:
• 尿検査:尿細胞診でがん細胞を確認する。
• 膀胱鏡検査:細いカメラを膀胱に入れて直接観察。最も重要な検査。
• 画像検査:CTやMRIでがんの広がりや転移を確認。
診断時に、筋層(膀胱の筋肉)に浸潤しているかどうかで治療方針が大きく変わります。
• 筋層非浸潤性膀胱がん(表在性):比較的早期。
• 筋層浸潤性膀胱がん:進行している状態。
3. 治療
1. 内視鏡手術(TURBT:経尿道的膀胱腫瘍切除術)
尿道から内視鏡を入れて、腫瘍を電気メスで削り取る手術です。
• 筋層非浸潤がんの標準治療
• 手術後、再発予防のため抗がん剤やBCGを膀胱内に注入することがあります。
2. 膀胱内注入療法
• 抗がん剤注入:再発予防のために用いる。
• BCG注入療法:再発予防・進展抑制効果が高く、筋層非浸潤がんに有効。副作用として頻尿や膀胱炎症状が出ることがあります。
3. 膀胱全摘除術
がんが筋層に及んでいる場合(筋層浸潤がん)の標準治療は膀胱を全て摘出する手術です。膀胱を摘出する場合には尿路変向術が必要になります。
尿路変向術:膀胱を取った後、尿を体外に出す方法が必要。
1) 尿管皮膚瘻:尿管を直接腹部に出し、体外の袋に出す方法。
2) 回腸導管:小腸を利用して尿を体外の袋に出す方法。
3) 新膀胱造設術:小腸を利用して新しい膀胱を作り、尿道から排尿できるようにする方法。
当院では*ロボット支援膀胱全摘除術(RARC)を導入しており、出血が少なく回復が早いことが特徴です。
4. 動脈内注入化学療法+放射線治療
膀胱をできるだけ残したい筋層浸潤性膀胱がんの患者さんに行われる治療法です。
足の付け根の血管からカテーテルを入れ、膀胱に流れる動脈に抗がん剤を直接注入し、同時に放射線を照射します。局所に高濃度の薬を届けられるため効果が高く、膀胱を温存できる可能性があります。ただし、すべての症例に適応できるわけではなく、再発の可能性もあるため、治療後は定期的な検査による厳重な経過観察が必要です。
5.薬物療法
進行性や転移を有する膀胱がんでは、抗がん剤や免疫療法を組み合わせた全身治療が行われます。
• これまで標準的だったGC療法(ゲムシタビン+シスプラチン)やddMVAC (ドセタキセル・メソトレキセート・アドリアマイシン・シスプラチン)に加え て、最近は免疫チェックポイント阻害薬との併用療法が新しい標準となっています。
o エンフォルツマブ ベドチン(EV)+ペムブロリズマブ
o GC療法+ニボルマブ(Nivolumab)
• さらに、FGFR遺伝子変異・融合を持つ患者さんには、**FGFR阻害薬(エルダフィチニブ)が有効とされています。
これらの治療により、従来の化学療法単独に比べて生存率や腫瘍縮小効果が改善しています。患者さんの腎機能、全身状態、遺伝子変異の有無などを考慮して、最適な治療法を選択します。
6. まとめ
膀胱がんは血尿をきっかけに発見されることが多いがんです。治療法は、がんが膀胱の筋肉に入り込んでいるかどうかで大きく分かれます。
• 早期(筋層非浸潤がん)では、内視鏡手術と膀胱内注入療法が中心。
• 進行がん(筋層浸潤がん)では、膀胱全摘除術が標準的な治療であり、ロボット支援手術が中心。
• 転移を認める場合には、化学療法、免疫療法が必要となります。
当院では、患者さん一人ひとりの状況に応じて、手術から薬物療法まで多様な治療法を組み合わせ、安心して受けられる最適な医療を行っています。