皮膚悪性黒色種
悪性黒色腫(メラノーマ、ほくろのがん)
悪性黒色腫は皮膚のメラノサイトが悪性化した皮膚癌です。皮膚癌の中でも進行がはやく、種々の治療に抵抗性であるため、早期発見・早期治療が大切です。治療の基本は多くの癌と同様に癌組織の切除と、術後の化学療法になります。
1)外科療法
標準的な治療は、早期に病変部を発見し、早期に手術による外科療法を行うことです。
検査のために病変の一部を採取する部分生検は、転移を誘発する可能性があると考えられており、悪性黒色腫が疑われれば、病変部の辺縁から少し離して病変部を全切除し組織検査を行います。切除した組織の病理組織検査で悪性黒色腫と診断された場合は、どの程度の深さまで腫瘍が浸潤しているかを計測します。また、PET/CT などの画像検査でリンパ節や他の臓器への転移がないかどうかを調べます。
切除範囲は病期にもよりますが病変の境界から数cm離して切除します。以前は腫瘍から5cm離して切除することが望まれていましたが、最近ではそこまで拡大した切除の必要はなく、だいたい2cm程度(症例による)離します。
リンパ節転移の有無は予後を決める重要な因子になります。以前は予防的なリンパ節郭清術を行うことも多かったのですが、最近は腫瘍の厚さが1.0mm以上であれば、まずセンチネルリンパ節生検を行います。センチネルリンパ節とは腫瘍がリンパ流に入った後、一番最初にたどり着くリンパ節のことで、ここに黒色腫細胞の転移が見つかればリンパ節郭清を行います。
2)化学療法
化学療法は、外科療法の後、検査でとらえられない微小な腫瘍細胞を殺して再発・転移を予防する目的や、内臓やリンパ節の転移巣を消滅させる目的などで行います。現在用いられる薬剤としてはBRAF阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬とが主流です。
(1)BRAF阻害薬
悪性黒色腫ではBRAFという遺伝子に異常がある事が多く、この遺伝子異常のために細胞がどんどんと活性化され増殖し、発癌につながると考えられています。このBRAFの活性を阻害する薬剤として、ダブラフェニブとエンコラフェニブという内服薬が認可されています。通常MEK阻害薬という薬を併用します。実際に悪性黒色腫の組織にBRAFの遺伝子異常があるかどうかを検査する必要があります。勿論、遺伝子異常がなければ効果は期待できず、投与できません。
(2)免疫チェックポイント阻害薬
癌を発症するとT細胞がこれを認識し、免疫反応を起こし、癌細胞の増殖を抑制しようとします。しかし、癌細胞はこの免疫反応を回避する機構を持っています。この免疫チェックポイントを阻害する事で癌細胞の増殖を抑制する薬剤が開発されています。
(i)抗CTLA-4抗体(イピリムマブ):腫瘍免疫の中心となるのはT細胞というリンパ球です。抗原提示細胞によって抗原がT細胞に提示されると、T細胞は活性化され、抗原に対し免疫反応を開始します。しかし、あまり過剰な免疫反応を来すと逆に生体に悪影響を与えるため、適当なブレーキが必要になります。このT細胞の初期の活性化を抑制するブレーキに相当するのがCTLA-4です。この分子がT細胞に発現する事で過剰な免疫反応が抑えられます。このことは癌に対しても同様ですが、癌に対しては免疫反応にブレーキがかかると癌細胞の増殖に優位になってしまいます。イピリムマブはCTLA-4を阻害する事で、癌に対する免疫反応の抑制を解除し、効果を発揮するものです。
(ii)抗PD-1抗体(ニボルマブ、ペンブロリズマブ):活性化したT細胞により炎症が始まってくると、活性化したT細胞にはPD-1という分子が発現してきます。この分子に抗原提示細胞に発現しているPDL-1やPDL-2が結合するとT細胞の活性化が抑制されてきます。つまり、PD-1は免疫反応の後半に行き過ぎた免疫反応を抑えるブレーキの役割を担っているのです。このPD-1の働きを抑えて癌細胞に対する免疫反応の活性化を維持しようとする治療です。
BRAF阻害薬は比較的早期に効果が出てきますが、免疫チェックポイント阻害薬は効果が出るのに少し時間がかかります。しかし、一度効果が出てくると効果が持続しやすいという特徴があります。悪性黒色腫に対する薬剤はこの他にも開発されてきており、今後は化学療法の選択肢が増えてくることが期待されます。
有棘細胞癌
有棘細胞癌
表皮の有棘細胞が悪性化したものです。紫外線が誘因として重要で、顔面や耳など露光部に好発する癌です。有棘細胞癌治療の基本は、原発巣の手術による摘出と放射線治療、またはこれらの併用になります。
1)外科療法
有棘細胞癌の治療においては外科的に切除する事が第一選択になります。皮膚は観察が容易で、特に有棘細胞癌は露出部に好発するため、診断時にはまだ病変が小さく局所にとどまっていることが多いです。また、有棘細胞癌は初期には所属リンパ節への進展や遠隔転移を来すことは比較的まれであり、手術療法の有効性は非常に高いです。腫瘍は、最低4mmの切除マージンを取って切除します。皮下への浸潤がある場合や、組織学的に分化度が低い場合には6~10mmの切除マージンを取って、十分に摘出します。
2)放射線療法
本症は顔面に好発し、また高齢者に多いこともあり、合併症などのために切除が難しいこともあります。この様な場合、放射線治療を行います。
3)化学療法
手術適応が無い症例や、多発性遠隔転移を来した場合には化学療法も治療の選択肢の一つとなります。主に使用される化学療法は、ぺプロマイシンの単独投与、シスプラチンとドキソルビシンの併用療法、シスプラチンと5-FUなどの併用療法、イリノテカンなどです。最近、根治切除不能な進行・再発上皮系皮膚悪性腫瘍に対する治療として免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブに保険適応が追加されたため、治療の選択肢が増えています。
基底細胞癌
基底細胞癌
基底細胞癌は一番多い皮膚癌です。70%が顔面、特に鼻の周りなど顔の中心部に多く発症します。黒色~褐色調の腫瘍として生じることが多いです。癌であり、局所での侵襲性は高い(つまり皮下組織、筋肉、骨など、深い部位にどんどん浸潤する力が強いです)が、遠隔転移する事はまれです。ですから、しっかりと切除すればあまり心配することはありません。
1)外科療法
他臓器への転移はまれな癌であり、生命予後は基本的に良好なのが基底細胞癌です。従って、原発巣を完全に切除する、というのが第一選択治療となります。切除範囲としては、水平方向の切除マージンはさほど必要ありませんが、基底細胞癌は深部への浸潤力が強いため、垂直方向へしっかりと切除する必要があります。顔面に好発する事もあり、十分な切除を行った後に、整容的な再建術が必要になる事も多くあります。この様な時は、再建の専門家である形成外科に協力してもらいます。
2)放射線療法
手術が困難な症例では放射線治療も考慮します。
3)その他
病変によっては凍結療法やイミキモド外用療法、光線力学的療法(PDT)も適応になります。
菌状息肉症
菌状息肉症
菌状息肉症とは、皮膚に原発するT細胞性リンパ腫です。紅斑期から扁平浸潤期、腫瘤期へと進展していきます。病初期は非特異的な皮膚の慢性炎症が長く続き、炎症性の皮膚疾患と鑑別が難しいこともあります。数年から数十年かけて慢性に経過します。
1)ステロイド軟膏などの外用療法
初期の浸潤を伴わない紅斑期では、通常の湿疹などに使われるステロイド軟膏が効果的です。塗る部位や範囲に合わせて適度な強さのステロイド軟膏を使用することによって、あまり副作用なく病変を消退することができます。
2)光線療法
紅斑期でも発疹が広範囲にある場合や扁平浸潤期には、光線療法が効果的です。特定の波長の中波長紫外線を照射するナローバンドUVB療法が主体です。ソラレンという薬剤を塗布、または内服して紫外線を照射するPUVA療法も用いられることがあります。これらの光線療法がこの時期の一般的な治療法です。反応は大半良好であり、寛解もしくはこの時期を維持することができます。副作用として、ヒリヒリ感などの刺激症状や紅斑が生じることがあります。
3)薬物療法
病変が進行し、扁平浸潤期や腫瘤期になってくると外用治療や光線療法だけでは効果が得られません。この場合、薬物療法として経口のレチノイド薬であるベキサロテン、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬、モガリズマブ(抗CCケモカイン受容体4モノクローナル抗体薬)、電子線照射などを行います。さらに進行した場合やリンパ節・内臓病変を生じた場合には抗がん剤による化学療法も試みられます。
血管肉腫
血管肉腫
血管肉腫とは血管やリンパ管の脈管内皮細胞から発生する悪性腫瘍です。主に高齢者の頭部、顔面に好発する非常にまれな腫瘍です。
1)薬物療法
血管肉腫の治療として化学療法単独での効果は限界があり、通常は手術療法または放射線療法との併用療法として実施されることが多いです。よく使われるものはタキサン系抗がん剤の一種であるパクリタキセル、ドセタキセルです。これらの薬剤で効果が得られない場合、パゾパニブ、エリブリン、トラベクジンなどの薬物が使用可能です。また一部の症例では免疫チェックポイント阻害薬も使用されます。
2)放射線療法
血管肉腫自体は放射線に対する感受性が高くはないため、薬物療法との併用や外科療法後の補助療法として用います。タキサン系抗がん剤と併用すると放射線感受性が増大することが知られており、抗腫瘍作用の相乗効果が期待できます。
3)外科療法
他のがんと同様に手術療法が選択肢にあがりますが、広い切除マージンを確保しても十分に取り切れないことも多いため、補助療法として放射線療法を併用することが一般的です。
乳房外Paget病
乳房外Paget病
高齢者に多く、湿疹の様な紅斑やびらんを主に外陰に生じます。アポクリン汗器官細胞から生じた腺癌と考えられています。
1)外科療法
乳房外Paget病の根治的治療は原発巣の切除です。しかし、本症では局所再発が一般的に高いとされています。この原因として、肉眼的には正常に見える周辺部分にもPaget細胞が存在していることなどが挙げられます。このため腫瘍の境界がはっきりしない場合、手術を行う前に病変の周囲を取り囲む様に数か所皮膚生検を行い(mapping biopsy)、癌細胞の有無を確認します。手術では辺縁から1cm~3cm程度離して腫瘍を切除します。
2)放射線療法
年齢や全身状態のために原発巣を切除できない場合などは放射線療法を行います。
3)化学療法
遠隔転移を生じた症例では化学療法を行いますが、まだ確立された方法はありません。主に5-FUやシスプラチン、カルボプラチンといった白金製剤、タキサン系のドセタキセルを投与します。
がん情報サービス 各種がんの解説:
https://ganjoho.jp/public/cancer/index.html
がん情報サイト
http://cancerinfo.tri-kobe.org/pdq/types/results.jsp?hlno=10