日本婦人科腫瘍学会から各婦人科がんの治療ガイドライン(金原出版)が出され、治療を標準化する努力がなされています。
また、NCCN(Nationalcomprehensivecancernetwork)「https://www2.tri-kobe.org/nccn/」「https://www.nccn.org」でも標準治療を提示しています。
婦人科で取り扱う主ながん、卵巣がん、子宮体がん、子宮頸がん、について説明します。

    卵巣がん

    卵巣がん

    上皮性腫瘍、性索間質腫瘍、胚細胞腫瘍の3種類に分かれますが、90%弱が上皮性腫瘍です。
    これからの説明は主に上皮性卵巣癌に対する治療とご理解下さい。
    卵巣癌は近年増えてきています。症状がほとんどないため約半数の患者さんが進行癌の状態で発見されます。

      1. 臨床進行期 

      1期 卵巣にとどまっている状態
      2期 癌が卵巣と子宮など骨盤内にとどまっている状態
      3期 癌が腹腔内へ広がっている状態
      4期 肺、肝臓など腹腔外へ広がっている状態

        2.治療方法

        卵巣癌が疑われた場合は基本的に手術がなされ、手術と化学療法を中心に行います。主な治療戦略として1期や2期ではまず手術を行い、術後に化学療法を行います。3期や4期では化学療法を先行し、治療が奏功している場合に手術を行います。さらに術後に化学療法を追加します。再発等の場合に放射線療法を用いることもあります。

        ・手術療法:
         卵巣癌に対する基本的な手術は単純子宮全摘術+両側付属器切除術+大網切除術+骨盤リンパ節郭清+傍大動脈リンパ節郭清です。
         肉眼的に早期に見えても実際は進行していることがあるので、手術で摘出した組織を顕微鏡で確認する必要があります。顕微鏡的に病巣が卵巣に限局し悪性度が高くない場合(IA期のG1(低悪性度)まで)は手術のみで治癒します。しかしそれを超えている場合には抗がん剤を追加することが必要です。
         病巣が腹腔内に広がっている進行癌の場合には、手術での完全切除は困難なので、手術の目的は腫瘍の量を減らすことになります。
         残存腫瘍が少ない程、治癒する可能性が高くなるので、腫瘍をできる限り切除する必要があります。この場合には、リンパ節郭清あまり意味がないかもしれません。手術困難な場合には、手術前に抗がん剤を投与することがあります。

        ・化学療法:
         卵巣癌は、がんの中では化学療法が比較的良く効くがんの一つです。卵巣癌は発見された時に進行していることが多く、また抗がん剤が非常に有効ですので、化学療法は重要な治療法です。手術後TC(パクリタキセル+カルボプラチン)療法を行なうのが一般的です。
         進行している症例では、抗癌剤治療と併用もしくは終了後に、さらに維持療法として分子標的治療薬を用いて再発予防に努めます。分子標的治療薬には血管新生阻害剤であるベバシズマブやPARP阻害剤であるオラパリブ、ニラパリブがあります。近年では相同組換え修復欠損(HRD)やBRCAバリアントといった遺伝子の変異の有無に応じて症例毎に治療方法の選択を行っています。

        ・放射線療法:
         放射線が用いられることはあまりありません。化学療法が無効な場合に、病巣に対して放射線治療が行なわれることがあります。

          3.妊孕性温存

          ・上皮性卵巣癌:
           病巣が顕微鏡的に卵巣に限局しており、悪性度が高くない場合は手術のみで治癒することが多く、この場合は子宮と健常な卵巣を温存することが可能とされています。病巣がこれを超えている場合には抗がん剤の投与が必要で、子宮と卵巣の温存は無理とされていますが、実際は個々の症例で相談して決めています。

          ・胚細胞性腫瘍の場合:
           未分化胚細胞腫を除けば、ほとんどが片側性で、化学療法の導入により良好な治癒率が得られます。またⅠ期に見えてもほとんどにおいて外科的な根治範囲を超えており、根治手術と保存手術の治癒率に差がないことから進行度にかかわらず子宮と健常卵巣の温存が可能とされています。

            4.遺伝性腫瘍

            日本人の卵巣癌の15%は、特定の遺伝子の異常が原因であることがわかっています(「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」、「リンチ症候群」など)。治療の選択肢を考えるための検査の結果で、遺伝性腫瘍家系が疑われることがわかる場合もあります。専門医による遺伝カウンセリング体制も整えていますので、ご希望の方は担当医や患者支援センターまで御相談ください。

              子宮がん

              子宮がん

              子宮には子宮頸癌と子宮体癌という2種類の癌があり、この2者は全く違う癌と考えて下さい。

                子宮頸癌

                頸癌は子宮の入り口のところにできる癌です。
                80~90%は扁平上皮癌で、10~20%は腺癌です。

                  1. 原因:子宮頸癌とヒトパピローマウイルス(HPV)

                  HPVは皮膚や粘膜に感染していぼを起こすウイルスですが、子宮頸癌の90%以上から検出されます。
                  HPVは主に性行為を介して感染します。HPVに感染しても多くの場合は自然に治癒します。一部の人ではHPVが持続感染し、持続感染した人の一部の人に子宮頸癌の前癌状態の異形成(CIN)が発症します。異形成になったとしても癌になるまでには5-10年かかるとされているので、この間に見つけることができたら治療が必要な場合でも簡単な治療で治癒します。HPVの感染を予防するHPVワクチンは、頸癌発症の減少効果が明らかになっ
                  ています。子宮頸癌の70%に関係するHPVの感染を予防できますが、100%ではないので、ワクチン接種後も子宮頸癌検診は必要です。

                  2. 予防:HPVワクチン

                  HPVワクチンは子宮頸癌の発生を、その原因となるHPVの感染を予防することで防ごうというものです。HPVワクチンによるHPV感染の予防効果は極めて高く、特に初交前に接種した場合には感染をほぼ100%予防することができます。HPVワクチン導入の早かった国においてはHPV感染やCIN、さらには子宮頸がん等のHPV関連がん(HPV感染が原因で発生するがん)の予防効果も示されています。
                  ・安全性:海外ではHPVワクチンの安全性は広く認知されています。本邦においても、全国疫学調査等で、「多様な症状」の頻度がHPVワクチン接種者と非接種者において有意な差が認められないことが報告されました。これらのことから、HPVワクチン接種と「多様な症状」の因果関係は否定的と考えられています。

                  3-1. 治療方法

                  手術療法、放射線療法、化学療法を組み合わせて行ないます。病状別の治療方法の選択肢は以下のとおりです。


                  ※軽度・中等度異形成: 1)経過観察
                              2)LEEP切除・レーザー蒸散
                              3)円錐切除
                              4)(単純子宮全摘出術)

                  ※高度異形成-上皮内癌: 1)LEEP切除・レーザー蒸散
                              2)円錐切除
                              3)単純子宮全摘出術

                  ※浸潤癌:IA1期:   1)円錐切除
                              2)円錐切除後に単純子宮全摘出術または準広汎子宮全摘術

                  ※IA2期:       1)準広汎子宮全摘術、骨盤リンパ節郭清
                                 扁平上皮癌の場合は卵巣温存可能。
                              2)放射線治療

                  ※IB1期:       1)広汎子宮全摘術、骨盤リンパ節郭清
                  扁平上皮癌の場合は卵巣温存を考慮。
                              2)放射線治療

                  ※IB2期:       1)広汎子宮全摘術、骨盤リンパ節郭清
                              2)放射線治療

                  ※IB3期~ⅡB期:    1)広汎子宮全摘術、骨盤リンパ節郭清

                  3-2.化学療法併用放射線治療

                  ※ⅢA期- ⅣA期: 化学療法併用放射線治療
                  ※IVB期:化学療法を主体に放射線治療を追加

                  手術療法:
                  ・LEEP切除・レーザー蒸散:
                   LEEP切除は、病巣を電気メスで切り取る方法です。病巣を一塊として切り取ることは出来ず、細長く切り取りますので、診断精度が円錐切除にくらべて少し劣ります。レーザー蒸散はレーザー光の熱で病巣を蒸発させる方法です。当科では細胞診・コルポスコピー所見、生検の全ての所見が一致し、かつ病巣が可視範囲にある症例を対象にしています。

                  ・円錐切除術:
                   円錐切除術は病巣のある子宮頸部を経膣的に円錐状に切り取る手術です。手術は腰椎麻酔下に30分程度で終わります。摘出組織で診断を確認できるので安全な方法ですが、子宮の下部が欠損するので、これから出産される方には流産・早産のリスクが2 - 3倍に増えます。また稀に術後に子宮口が狭くなり月経血が出にくくなるという 後遺症があります。CIN3までは円錐切除術で治療可能です。
                   IA1期で脈管侵襲がなく、断端が余裕をもって切除されている場合治療可能です。他の場合は追加治療が必要となることがあります

                  ・単純子宮全摘出術:
                   上皮内癌まで治療可能です。IA1期も治療可能ですが、IA1期の診断は円錐切除によってなされなければならないので、円錐切除後に単純子宮全摘出術を行なうことになります。子宮筋腫で子宮を摘出するのとほぼ同じ方法で、後遺症はありません。

                  ・準広汎子宮全摘出術:
                   IA1~ⅠA2期の手術方法として開発されました。本手術は子宮と一緒に子宮の周りの靭帯を少し切り取る手術で、腟を充分切除することができます。特に後遺症はありません。

                  ・広汎子宮全摘出術:
                   主にはⅠB 1期~ⅠB2期(子宮頸部にのみ限局する4c mまでの浸潤癌)が主な対象になります。本手術では子宮とその周囲の靭帯および腟の一部を摘出します。子宮頸癌ではリンパ節転移が起こりうるため、骨盤内のリンパ節郭清を同時に行います。       
                   リンパ節転移の可能性が高い場合にはより上位の傍大動脈リンパ節を廓清することがあります。               
                   扁平上皮癌の場合は、卵巣摘出は必ずしも必要としませんが、腺癌や進行した例では卵巣も摘出します。           
                   本手術で最も頻繁にみられる合併症は排尿障害で、術後訓練が必要です。                         
                   他に骨盤内にリンパ液が貯まるリンパ嚢胞形成や下肢がむくむリンパ浮腫などがあります。

                  放射線療法(化学療法同時併用):
                  子宮頸癌に対する放射線療法は、手術療法に匹敵する治療成績が得られています。
                  米国では、比較的早期のものは手術、ある程度進行したものは放射線で治療されています。
                  近年抗がん剤と放射線治療を同時に行なうと有意に治療成績が向上することが世界的に認められています。
                  従って初期の場合は放射線治療単独、ある程度進行した場合は化学療法同時併用放射線治療で治療します。

                  妊孕性温存
                  若い婦人の場合には子供を産む能力(妊孕性)を温存する必要があります。
                  IA1期までであれば円錐切除で子宮、卵巣を温存できる場合があります。
                  IA2期~ⅠB1期に対しては子宮体部を残して子宮を温存すうる手術方法(トラキレクトミー)があります。この術式は妊孕性温存を望む場合に考慮されますが、摘出標本の切除断端が陰性でも温存子宮に遺残病変があるとの報告があり、その適応には慎重を要します。また、早産のリスクも上がるため、妊娠時には総合周産期母子医療センターでの妊娠管理が望ましいです。
                  なお、子宮の温存は無理でも卵巣を残すことが出来れば代理母で子供を得ることは可能ですが、代理母は本邦では未だ認められていません。

                  子宮体癌

                  子宮体癌は子宮の内腔にできる癌です。最初は内側の表面にあるだけですがやがて子宮の外にむかって子宮の壁を浸潤していきます。
                  子宮体癌は以前は子宮癌全体の1割くらいでしたが、最近は生活の欧米化に伴って増加しており半分以上を占めるようになっています。

                    1.原因

                    子宮体癌のリスク因子にはエストロゲン過多の状態があります。
                    主なリスク因子として、未産婦・月経異常・不妊症・エストロゲンの服用歴・動物性脂肪摂取・肥満・高血圧・糖尿病・遺伝性(リンチ症候群)が挙げられます。
                    女性ホルモンであるエストロゲンは女性を女性らしくする(肌をきれいにしたり、乳房を大きくしたり)するホルモンですが、子宮内膜を増殖させる働きがあります。一方、黄体ホルモンは妊娠を維持するホルモンですが、子宮内膜の増殖を止める働きがあります。つまり、エストロゲンは内膜をがん化の方向へ進め、黄体ホルモンは正常に引き戻すことで均衡がとれている訳です。この均衡が破れエストロゲンが優位になると子宮体癌の発生率が上昇すると考えられています。

                    2. 治療方法

                    子宮体癌の治療は、手術療法が第一選択です。若年でごく初期(異型内膜増殖症~ⅠA期類内膜癌グレード1)の症例に限り、妊孕性温存を希望する場合には、大量黄体ホルモン治療を行う場合もあります。また、手術後に化学療法や放射線治療を行うこともあります。

                    手術療法:
                    子宮体癌の手術は子宮・卵巣・リンパ節(骨盤・場合によっては傍大動脈リンパ)・大網(お腹の中の脂肪のエプロンのようなもの・取っても影響ありません)を摘出する必要があります。卵巣についても転移することが多いので摘出せざるを得ません。腫瘍が子宮体部にとどまっている場合は単純子宮全摘術が行われますので、後遺症が残ることはありません。最近では開腹手術の他に症例を選択して腹腔鏡手術で子宮を摘出することが多くなってきています。腫瘍が子宮頸部まで広がっている場合は準広汎子宮全摘や広汎子宮全摘が行われます。広汎子宮全摘が行われた場合は排尿障害が起こる場合があります。また便秘傾向が現れることがあります。リンパ節を摘出した場合は脚に浮腫が生じたり、骨盤の中にリンパ液が溜まる(リンパ嚢胞)ができることがあります。月経がある方で卵巣を摘出した場合は更年期症状が出ることがあります。発汗、のぼせ等の症状が現れることがありますが、女性ホルモンによる治療を行うと改善します。子宮体癌の多くは女性ホルモン(エストロゲン)で発育が促進されるので、ホルモン補充療法が行えるのは再発がない場合に限られます。
                    近年では低悪性度の子宮体癌ⅠA期に対する腹腔鏡下手術やロボット支援下手術といった負担の少ない低侵襲の手術が普及してきており、当院でも適応症例には積極的に同術式を採用しています。

                    放射線療法:
                    子宮体癌は一般的には放射線治療が効きにくいとされていますので、手術ができない場合に考慮される事があります。また、手術後に再発の危険がある場合に使われる事があります。手術後の追加治療として、放射線治療と抗がん剤治療のどちらが優れているかについては、効果が同等であるとの報告があり、最近では術後には抗がん剤治療を行う症例が増えてきています。また再発した場合に再発部位に対して行われることがあります。

                    化学療法:
                    手術の結果、追加治療が必要と判断された場合には術後に化学療法を行うことがあります。また、手術が不可能な進行癌や、放射線療法が行えないような再発癌では第一選択となります。

                    ホルモン療法:
                    子宮体癌には高用量の黄体ホルモン(酢酸メドロキシプロゲステロン)を、未産婦で子宮温存を強く希望される患者さんは、ⅠA 期、G1(低悪性度)の条件に限り、ホルモン療法を選択することができます。黄体ホルモンの副作用としては血栓症があります。これは血管の中で血液が固まってしまう病気で、大事な血管が詰まると重大な事態になります。そこで血液の固まり易さを検査しながら投与します。また黄体ホルモンには食欲を増進させる作用があります。