前立腺がん
1. はじめに
前立腺がんは、男性に特有の臓器である前立腺に発生するがんです。日本では年々増加しており、男性で最も多いがんの一つになっています。特に60歳以上の男性に多く、高齢化の進展と食生活の欧米化により、発症率は増加傾向にあります。2021年には年間約1万3千人が前立腺がんで亡くなられています。
早期の前立腺がんは症状がほとんどありません。 多くの場合、健康診断や人間ドックで測定されるPSA(前立腺特異抗原)検査の値が高くなったことをきっかけに発見されます。
がんが進行すると以下の症状が出ることがあります
• 排尿困難(尿の出が悪い、尿の勢いが弱い)
• 頻尿、夜間頻尿
• 残尿感
• 血尿
• 腰や骨の痛み(骨転移による)
危険因子としては、加齢、家族歴(遺伝的要因)、食生活(脂肪の多い食事など)が知られています。
2. 診断
前立腺がんの診断には以下の検査が行われます
• 血液検査(PSA):前立腺がんのスクリーニングに広く用いられる。
• 直腸診:医師が肛門から指を入れ、前立腺の硬さやしこりを触診。
• MRI検査:がんの位置や広がりを詳しく確認可能。
• 前立腺生検:細い針で前立腺から組織を採取し、顕微鏡でがん細胞を確認。
診断後は、病期(ステージ)、がんの悪性度(グリソンスコア)、PSA値などをもとに治療方針が決定されます。
3. 治療
前立腺がんの治療法は、がんの進行度、悪性度、PSA値、年齢、全身状態などを総合的に判断して選択されます。
1. 手術療法(前立腺全摘除術)
前立腺とその周囲の精嚢(せいのう)を切除する治療です。早期から局所進行期のがんが対象です。
• ロボット支援手術(ダ・ヴィンチ、hinotori)が主流。小さな切開で行い、出血が少なく回復が早い。
• 神経温存手術により、勃起機能の温存を目指すことも可能。
• リンパ節郭清を併用することで転移の有無を確認することがあり。
2. 放射線治療
手術と並んで根治を目指す治療法です。
• 外照射(IMRT:強度変調放射線治療)
正常組織を避けつつ、前立腺に集中して放射線をあてる方法。従来の放射線治療と比較すると副作用が少ない。
• 小線源治療(ブラキセラピー)
前立腺に小さな放射性の種を埋め込む治療。悪性度の低い早期がんに有効。
• 外照射と小線源の併用も行われています。
3. 薬物療法
前立腺がんは男性ホルモン(テストステロン)を栄養にして成長します。そのため、ホルモンの働きを抑える治療が有効です。
• ホルモン療法(去勢療法):精巣からの男性ホルモン分泌を抑える注射薬や、ホルモン作用をブロックする内服薬を使用。
• 新規ホルモン薬:アビラテロン(ザイティガ)、エンザルタミド(イクスタンジ)、アパルタミド(アーリーダ)、ダロルタミド(ニュベクオ)など。再発・転移症例でも有効性が高い。
• 抗がん剤:ドセタキセル、カバジタキセルなどが転移例に用いられる。
• 放射性医薬品:骨転移に対してラジウム223(ゾーフィゴ)が使用可能。
4. 経過観察(積極的監視療法)
進行が極めて緩やかな早期がんに対しては、すぐに治療せず、定期的な検査で経過を観察する方法が選択されることがあります。不要な副作用を避けられるのが利点です。
4. まとめ
前立腺がんは早期に発見できれば高い確率で治癒が可能な病気です。PSA検査や画像検査の進歩により、より早期に診断される患者さんが増えています。
治療法には手術、放射線、ホルモン療法、新薬治療など複数の選択肢があり、患者さんの病状や希望に合わせた個別化治療が可能です。
当院では泌尿器科・放射線科が連携し、安全で質の高い治療を提供しています。