膀胱がん

1. はじめに

膀胱癌は、膀胱の尿路上皮(移行上皮)粘膜から発生する悪性腫瘍であり、病理組織学的に、その約90%以上が尿路上皮癌です。
我が国における膀胱癌の発生頻度は、年間10万人あたり6から10人程度で、2002年の10万人あたりの年間の罹患率は、全体で7.6人で、男女別に見ると男性13.5人、女性が2.9年と男性は女性の約4倍の頻度で罹患することが知られています。
特に高齢者に多く75歳代から79歳では、年間10万人あたり男性が52.4人、女性が22.5人発症しています。


膀胱癌の危険因子として、喫煙、職業性発ガン物質への暴露(化学染料中に存在する芳香族アミン類など)、膀胱の慢性炎症、特定の抗がん剤や放射線治療に伴う二次発がん等が挙げられています。
 

    2. 診断

    膀胱癌の症状は血尿が最も多く(約85%)、その他、頻尿、排尿痛などの膀胱刺激症状を認めることもあります。検診で尿潜血を指摘された場合に精査が必要ですが、症状がなくても肉眼的に血尿を認めた場合は膀胱癌をはじめとした尿路の病期が隠れている可能性が高く、必ず精査を受ける必要があります。

    主な検査として、超音波検査、排泄性尿路造影、造影CT、尿細胞診(尿中の膀胱がん細胞を調べます)、膀胱鏡などがあり、肉眼的血尿、超音波検査や尿細胞診で膀胱癌が疑われる場合には膀胱鏡は必須の検査です。最近は、軟性膀胱鏡という胃カメラのような金属製でないソフトな内視鏡が使用可能で、苦痛も少なく楽に検査を受けることができます。当院でも軟性膀胱鏡を使用しています。

      3. 治療

      膀胱癌の治療は筋層まで癌が到達していない筋層非浸潤性膀胱癌(表在性膀胱癌)と筋層浸潤性膀胱癌で、治療方針が異なってきます。
      一般的な治療法として、

      1)外科治療(内視鏡手術、開腹手術、腹腔鏡下手術、ロボット支援下腹腔鏡下手術)
      2)放射線療法(外照射治療)
      3)膀胱内注入療法
      4)全身化学療法

      などがありますが、膀胱癌の進行度(病期)や個々の希望や状況に応じて治療法の選択が異なります。
      当院では、最新技術を含めた多くの治療方法が選択可能です。


      膀胱癌の治療法を、日本泌尿器科学会から出された膀胱癌診療ガイドライン(医学図書出版)に基づいて紹介します。
       

        1)筋層非浸潤性膀胱癌(表在性膀胱癌)

        未治療膀胱癌の約70%を占め、基本的には経尿道的(内視鏡で)に切除可能で、ほとんどの症例で経尿道的切除術(TUR-BT)が施行されます。再発の確率は高く、その確率は50%以上であり、約10%が浸潤癌になることが知られています。再発予防には、膀胱内に抗がん剤やBCGを注入しますが、膀胱癌が、多発性、組織学的に腫瘍の悪性度が高い場合、上皮内癌(CIS)を伴う場合、頻回に再発する場合は、BCG膀胱内注入治療がより効果が高いことがわかっています。

        2)筋層浸潤性膀胱癌(浸潤性膀胱癌)

        標準治療は、膀胱全摘除術を行い、膀胱の代わりに尿路変向を行います。尿路変向には、尿管を直接ストーマにする尿管皮膚瘻、回腸の一部を用いて回腸をストーマにする回腸導管、ストーマはなく回腸で新しい膀胱を作成して尿道から排尿する回腸新膀胱があります。開腹の膀胱全摘除術は、からだへの侵襲がかなり大きな手術でしたが、2018年4月よりロボット支援下手術が保険適応となり、従来の開腹手術と比較して、出血量が少なく、術後の回復が早いことが認められています。
         筋層浸潤性の膀胱癌が限局している場合には、膀胱部分切除術が可能なこともあります。膀胱温存を強く希望される場合には、抗がん剤動注療法+放射線療法が行われることもあります。

        3)転移を有する症例

        転移を有する症例では全身化学療法が中心となります。
        その他、放射線療法やその他の補助療法を行っています。

        ・全身化学療法:一次療法として、以前はメトトレキセート(M)、ビンブラスチン(V)、アドリアマイシン(A)、シスプラチン(C)によるM-VAC療法が主に行われ、奏功率は50-70%でした。しかしM-VAC療法は副作用が強いため、最近では、M-VAC療法と比べて副作用が少なく、効果が同等のゲムシタビン(G)とシスプラチン(C)によるGC療法が主に行われています。腎機能が悪い患者さんや全身状態の悪い患者さんには、シスプラチンでなく、ゲムシタビンとカルボプラチンを投与する場合があります。二次療法としては、これまで経験的にパクリタキセルという薬剤を中心とした化学療法が行われてきましたが、新しい免疫療法として、抗PD-1抗体のペンブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)の効果が証明され、膀胱癌の二次治療以降の治療選択肢として、2017年12月に承認されています。

        ・放射線療法:骨転移やその他の転移巣の痛みを緩和するために行う場合があります。

        ・骨転移部位の骨折や放射線療法を要するリスクを低下させるために、ビスフォスフォネート(商品名:ゾメタ)や抗RANKL抗体(商品名: ランマーク)を併用する場合があります。

        4. 参考文献

        膀胱癌診療ガイドライン 日本泌尿器科学会/編 医学図書出版、2015年版

        5. 治療法の紹介およびリンク先

        徳島大学泌尿器科:
        http://www.tokushima-hosp.jp/info/circulatory.html?rank_code=unit&belong_code=10

        米国泌尿器科学会:https://www.auanet.org/

        ヨーロッパ泌尿器科学会:http://www.uroweb.org

        がん情報ネットワーク(NCCN):https://www.nccn.org/