乳がんの標準治療

乳がんは年々増えています

乳がんは年々増加傾向にあり、1990年代には女性の臓器別癌罹患率の第1位となりました。
現在では約18人に1人が罹患すると言われています。徳島県でも毎年400人近くに乳がんが発見され治療を受けています。

欧米では乳がんの頻度はさらに多く、8人に1人の女性がかかる疾患です。
しかし、1990年以降、ヨーロッパや米国など欧米先進国では死亡率が減少傾向にあります。
これは70%〜80%の女性がマンモグラフィーを用いた乳がん検診を受けるようになり、早期に発見される乳がんが増えてきたことが要因のひとつと言われています。

欧米と違い、日本では乳がん死亡が年々増えているのは何故でしょう。日本では検診率が約20%と低いことが挙げられます。
徳島県でもマンモグラフィー検診が導入されて久しいですが、平成22年度の乳癌検診受診率は19.3%と全国平均24.3%を大きく下回る結果です。
2006年に制定されたがん基本対策法で目標にしている検診受診率50%にならなければ死亡率を半減することはできません。

乳がんを漠然と恐れるのではなく、定期的なマンモグラフィー検診を心がけましょう。
そして毎月(閉経前の女性は月経後数日が目安)の自己検診を行いましょう。

    乳がんにかかりやすいひと

    乳がん、卵巣がんの家族歴(2.7倍)、乳がんの既往(5倍)が乳がんの罹患に一番関与している因子です。
    また、乳がんは女性ホルモンの影響を受けるため、初潮が早く、閉経が遅いほどかかりやすく、食生活では動物性脂肪のとりすぎや肥満、出産年齢の高齢化や少子などもリスク因子と言われています。
    更年期障害に対するホルモン補充療法も因果関係があると報告されており、これらに該当する人は注意が必要です。
    しかしこれらに該当しないからといって罹患しない訳ではありません。
    全ての方が乳がん検診を受ける事をお勧めします。

    乳がんの症状

    乳がんの9割は“しこり”で発見されます。
    その他にも乳房皮膚のくぼみ、乳頭からの出血、乳頭のタダレなどで見つかる事もあります。
    乳がんはお乳を分泌する管に発生し、ゆっくりと管の中で成長してしこりを作ります。
    つまり自分で気がつくようなしこりになる前の(早期の)乳がんを見つけるためには、検診マンモグラフィーが有用です。
    マンモグラフィーでは触知しないような小さなしこりや微細な石灰化(がん細胞の足跡)を発見する事が出来ます。

    乳がんの標準的治療法

    乳がんの治療には局所治療(手術療法や放射線治療)と全身治療(薬物療法)があります。
    乳がんのタイプによってこれらを組み合わせて治療します。

      手術療法

      乳管内に留まるような早期がんであれば、手術だけで治癒できる可能性があります。 

      乳がんは乳管を介して広がっていることもあるため、超音波検査や CT、MRI検査で乳がんの広がりを調べます。
      これらの検査でしこりの広がりがあまりない場合(通常は3cm以下のしこり)には乳腺の部分だけを切除する乳房温存手術が可能です。
      温存手術を選択した場合は術後に放射線治療が必要です。
      乳がんが広がっている場合、温存手術で高度の変形が予想される場合は乳房切除(全摘)を選択します。

      本年よりシリコンを用いた乳房再建が保険適応になりました。
      全摘術後に乳房再建術を行う事が出来ます。

      また、乳がんの病状把握、治療方針の判断にはワキのリンパ節に転移しているかどうかが、重要な情報となります。
      手術の際にはワキのリンパ節を採取し、転移の有無、転移の個数を調べます。

      がん治療で大切な術後補助療法

      がんは乳房の局所だけの病気ではなく全身の病気です。
      たとえ進行度Ⅰ期のがんでも手術だけでは再発することがあり、進行度に比例して再発リスクは高くなります。 
       
      がんの性格や転移したリンパ節の個数などから患者さん個々に適したホルモン療法や抗がん剤の治療を行います。

      乳がんの約7割が細胞内に女性ホルモンに反応する受容体をもっており、ホルモン剤による再発予防効果が期待できます。
      閉経前には注射剤で月経を抑え、受容体に競合的に結合して女性ホルモンの働きを弱めるタモキシフェンを用います。
      閉経後では、癌や副腎、脂肪 組織で女性ホルモンをつくる転換酵素であるアロマターゼを阻害するアロマターゼ阻害剤を用います。

      また、乳がんの15-25%にはがんを増殖させるHER2(ハーツー)蛋白が存在します。
      この蛋白が陽性の乳がんは、増殖力が強く、転移や再発を起こしやすい性質を持ちます。
      このタイプには抗がん剤やこの蛋白に対する抗体であるトラスズマブ(ハーセプチン)を用いた再発予防治療が必要です。

      ホルモン受容体もHER2蛋白も陰性の乳がんには抗がん剤治療を用います。

      治療効果が確認できる術前療法

      近年、手術前に抗がん剤やホルモン療法を行う術前治療が行われるようになっています。この利点は治療中にしこりのサイズを確認する事で、薬の効き具合を確かめる事が出来る事です。(手術後の治療ではしこりをすでに摘出しているためその場で確かめる事が出来ません。)
       治療によってしこりが小さくなれば身体に潜んでいるかもしれない全てのがん細胞にも効果が出るはずです。また治療により乳がんが消失するほどの効果が得られれば再発率が下がり、長生きできるというデータもあります。

       まずは毎月の自己検診、定期的な乳がんマンモグラフィー検診を行いましょう。乳房腫瘤を自覚した場合や、検診で要精査となった場合は、落ち着いて専門医を受診しましょう。良性腫瘍、月経に伴う症状など乳がん以外の病気の可能性もあります。放っておかずに適切な検査を受けて下さい。
       乳がんはがんの中でも最も研究が盛んな分野のひとつです。世界中で様々な研究が行われ、年々新たな薬剤が開発されています。乳がんと診断された場合は、専門医の説明をよく理解し、適切な治療を受けましょう。